痔瘻(ジロウ)(あな痔)

痔瘻とは

穴痔(アナジ)と呼ばれるもので、細菌による化膿によって発生します。
細菌が肛門陰窩より侵入し、肛門腺が化膿し、肛門のまわりに管(瘻管)ができ、この管によって肛門の内側と外側が交通した状態(突き破られた状態)になったものです。下痢気味な人がかかりやすい痔ですが、特殊な大腸の病気が原因で発生することもあります。

痔瘻の始まりは肛門周囲膿瘍という、肛門の近くが化膿して膿がたまった状態で、ひどい痛みがあります。

放置すると膿が肛門付近の皮膚を破って出てきます。通常は痛みを我慢できず、切開排膿処置を行います。排膿後に瘻管が残り、肛門の内側と外側が交通してしまいます。この管からは膿や粘液が出てきます。切開排膿後数週間で、この管を治療(痔瘻根治手術)します。

痔瘻(ジロウ)(穴痔)
痔瘻(ジロウ)(穴痔)
一次口は細菌が侵入した穴、二次口は皮フから細菌が出た穴。途中の管を瘻管と呼びます。

痔瘻を起こす細菌

痔瘻の原因となる細菌の種類としては、大腸の常在細菌(ふだんから大腸の中に生きている細菌)である大腸菌が主ですが、かつては結核菌によるものが多くありました。
しかし現在では、結核菌による痔瘻はきわめてまれです。

痔瘻と下痢と糖尿病

通常は、直腸の部分では便は固形で、この固形の便が小さな肛門陰窩からミクロ単位の肛門腺に侵入することは困難で、痔瘻にはなりません。しかし、下痢便は小さな肛門陰窩からきわめて細い肛門腺に侵入しやすく痔瘻が発生しやすいと考えられています。
また、糖尿病があると、細菌はさらに繁殖しやすいのです。理由はよくわかっておりませんが、痔瘻は男性に多く、女性の2倍~5倍といわれています。

大腸の病気と痔瘻

クローン病や潰瘍性大腸炎と呼ばれる大腸の特殊な病気が原因で、痔瘻が発生することもあります。この場合、痔瘻の手術を行っても再発することが多く、痔瘻の原因となっているクローン病や潰瘍性大腸炎を治療しながら、痔瘻を治療する必要があります。
(文献 城 俊明他:クローン病の肛門、瘻孔の外科治療 臨床消化器内科 18巻7号 P,1059、2003年)

痔瘻癌

きわめてまれですが、痔瘻が癌であることがあり、痔瘻癌といいます。
(文献 城 俊明他:肛門部癌 臨床科学 28巻9号 p,1205、1989年)
高齢者で5年あるいは10年以上継続する痔瘻には、痔瘻癌の疑いがあります。
痔瘻が癌になってしまったのか、もともとの肛門腺由来(肛門腺から発生した)の特殊な肛門癌があり、痔瘻になってしまったのかは、まだ解明されておりません。しかし、繰り返しておきますが、痔瘻癌はきわめてまれです。

そのほかの痔瘻

裂肛や直腸肛門に発生した傷(たとえば魚の骨が刺さったとか)からも、痔瘻が発生することがあります。

肛門周囲膿瘍

痔瘻のはじまりは、肛門周囲膿瘍で、ひどい痛みをともない、通常は痛みを我慢できず、切開排膿を行います。排膿後数週間たってから、痔瘻の根治手術を行う必要があります。

膿瘍の発生する部位によって、下図のように分類できます。

肛門周囲膿瘍①骨盤直腸窩
②高位筋間
③低位筋間
④坐骨直腸窩
⑤粘膜下
⑥皮下

痔瘻の分類

肛門周囲膿瘍の膿(ウミ)が体外へ流出(排膿)すると、細菌がはじめに侵入した肛門陰窩(1次口と呼びます)と、膿が排出した部位(2次口と呼びます)に交通(トンネル)ができます。

このトンネルを痔瘻の瘻管といいますが、瘻管の部位によって分類されます。
したがって、肛門周囲膿瘍の部位と密接な関係があり、これに2次口の部位を考慮して分類されます。
2次口の部位と、1次口の関係については、グッドソールの法則 (Goodsall’s rule) というものがあり、肛門を前後に分けてみると、前半にある痔瘻の1次口は、2次口と肛門の中心を結んだ部位の肛門陰窩に、後半のものでは肛門のもっとも後ろの陰窩(時計にたとえると6時の部位)にあるといわれております。(下図)

痔瘻の分類
痔瘻の分類は日本では、隅越分類がよく使用されます。

痔瘻の分類

痔瘻および肛門周囲の膿瘍治療に関する問題点

自然に排膿した肛門周囲膿瘍では、瘻管は自然に発生したものですが、通常は痛みのために人為的に切開排膿処置を行います。

人為的に切開排膿処置を行った場合、膿瘍に向かって切開した部位が瘻管となります。したがって、肛門周囲膿瘍や痔瘻というものを十分に理解していない医師が治療を行うと、切開時に外肛門括約筋や肛門拳筋を傷つけてしまい、難治療性痔瘻としてしまう危険性があります。痔瘻の治療では、とくに直腸肛門部の外科治療に熟練した医師を受診することが大切です。

痔瘻の治療

通常、痔瘻は根治手術を行わないと治りませんが、まれに自然治癒するものもあります。
痔瘻の治療は瘻管の中で細菌が増加することを防止することです。

このためには瘻管をなくしてしまうことがもっとも確実な治療ですが、1次口を的確に診断治療しないと、痔瘻は治らず、手術後に再発し、再び瘻管を形成してしまいます。

それでは1次口の部位と瘻管を大きく切除してしまえば痔瘻が完治し、再発しないのではと思われるかもしれません。確かに、大きく切除してしまえば再発しにくいのは事実です。しかし、これでは、大切な肛門括約筋を深く傷つけてしまい、肛門の締まりがなくなってしまい、便がタレ流しになってしまいます。こんなことなら痔瘻があっても手術しない方が良かったという状態になってしまいます。実際に30年以上も前に痔瘻の手術を受け、肛門の締まりがほとんどなくなってしまった患者さんが来院されることがあります。
痔瘻の手術でもっとも大切なことは、もちろん治療することですが、それと同時に、肛門括約筋を許容範囲以上に傷つけないことです。深く傷つけたために締まりの悪くなってしまった肛門の締まりを取り戻すのはとても難いのです。これより再発した痔瘻を治療する方がはるかに簡単なのです。

痔瘻の手術

痔瘻の手術の基本は、1次口と瘻管・2次口の処置です。
もっとも大切なのは1次口の処置であり、瘻管と2次口は必ずしも切除・切開等の処置を行わなくても、痔瘻は治癒することが明らかになっております。
代表的な手術方法は、「瘻管切開開放術」と「括約筋温存手術」ですが、「セトン法」による治療や処置も、その安全簡便さのためによく行われております。

また最近では、1次口閉鎖するだけでも痔瘻が治癒することがわかってきており、適応をよく選び十分な説明をした上で、1次口閉鎖術を行うこともあります。

瘻管切開開放術

1次口から2次口までの瘻管を、完全に切開する方法です。

瘻管切開開放術

根治性(完全に治ること)は高いのですが、括約筋の一部を切離するので(下図)のように外肛門括約筋の深い部分を瘻管が貫いている場合には、この方法は行いません。もしこの部位で瘻管を切開すると、外肛門括約筋が大きく切離され、肛門の締まりが悪くなってしまいます。このような痔瘻では他の手術方法で治療する必要があります。

30~40年以上前には、痔瘻と括約筋の関係がよく理解されていないことが少なからずあり、大切な括約筋を大きく傷つけてしまい、おしりの締まりが悪くなり、ガスが漏れて、下痢をするとタレ流し状態となってしまうことがありました。

現在では、大腸癌、とくに直腸癌の手術を多数経験し、括約筋の構造を十分理解した、本格的といえる大腸の外科医が痔瘻の治療も行うようになったこともあり、括約筋が大きく切離損傷されることは非常に少なくなりました。

瘻管切開開放術

括約筋温存術

括約筋温存術

瘻管を切開せずにくり抜いて、さらに1次口を縫合閉鎖(縫い合わせて閉じる)する方法です。括約筋を傷つけずに治療するための手術方法ですが、切開開放術に比べて痔瘻が再発しやすいという欠点があります。

セトン法

瘻管に輪ゴムや糸を通して、強く縛って圧迫し、瘻管を1~2週間かけてゆっくり切開する方法です。
適応は手術治療を極度に嫌う患者さん、全身状態が悪い場合、クローン病や潰瘍性大腸炎がある場合等です。
1次口の部位が明らかで、瘻管が外肛門括約筋の深い部位を貫いていないものでは、多くの場合かなり有効です。

しかし、締め上げるために、セトン治療中に痛みが強いことがあり、工夫が必要な場合もあります。また、徐々に切開しているうちに、すでにセトンにより切開された部位が癒着を起こし、ふたたび瘻管となってしまう場合もあります。

セトン法

セトンによるドレナージ治療

ドレナージ (drainage) とは、創部(傷)からの排膿や排液が容易になるように、膿やよけいな浸出液、血液等が通る逃げ道を造ることです。
セトン法に準じて、輪ゴムや糸を瘻管に通し、ドレナージを行うことがあります。ただしこの場合、輪ゴムや糸は縛め上げないで、緩んだ状態で通しておきます。(上図)。
肛門周囲膿瘍の切開排膿後に、切開した皮膚の傷(2次口)が早く治ってしまい、痔瘻の根治手術を行う前に、ふたたび膿が溜まり、腫れ上がることがあります。これを予防し、なおかつ1次口と瘻管が確実に判別できるように、セトンによるドレナージ法を行うことがあります。
はじめに輪ゴムや糸を緩く通しておいて、後日それを縛め上げ、セトンによる痔瘻の治療を行うか、あるいは後日痔瘻根治手術(切開開放術、括約筋温存術等)を行い治療します。
セトンによるドレナージを行った後の根治手術は、手術がかなり確実容易であり、術後、出血や痛みも非常に少なく、とても優れた治療方法です。

1次口の閉鎖手術

特殊な方法ですが、痔瘻の原因となった1次口を閉鎖するだけでも痔瘻が治ることがあります(文献 城 俊明他:痔瘻に対する一次口の閉鎖または切除の効果 臨床外科誌 64巻6号 p,1305、2003年)。

この方法では、切開を行わないので、括約筋が傷つくことはまったくありません。
術後の評価については今後数年の経過成績を観てから行う必要がありますが、この手術による肛門の障害は非常に少ないので、はじめにこの手術を行い、痔瘻が再発してしまった場合には、一般的な切開開放術を行うことも治療の選択の一つと思われます。

1次口の閉鎖手術

1次口および限局的な瘻管の切開開放手術

複雑な痔瘻で、2次口が1次口とかなり離れた部位にあるとか、2次口が数カ所ある場合があります。このような痔瘻でも、1次口は1カ所であることが多く、とくに1次口が後方にあるものにこうした型の痔瘻があります。

このような場合、瘻管を全部切開すると、大きな、治りにくい、しかも時には肛門括約筋を切離するような傷となってしまいます。

現在、2次口に近い部分の瘻管は切開しなくても、1次口および1次口付近の瘻管を切開し、十分なドレナージを行えば、複雑な痔瘻でもほとんどの場合完治することが明らかとなっております。

当院では、多くの複雑な痔瘻に対してこの方法で治療し、良好な結果を得ております。

たとえば下図のように、後方に1次口があり、左右側方に2次口をもつ馬蹄型痔瘻とよばれるものでも、1次口から内外括約筋の間を後方に向かって切開開放するのみで痔瘻は完治し、再発はまれです。術後の痛みも少なく括約筋の障害もほとんどありません。

大切なことは、1次口を的確に診断することです。

1次口および限局的な瘻管の切開開放手術

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