逆流性食道炎とバレット食道

『逆流性食道炎』とは?

『逆流性食道炎』とは、胃液が食道に逆流して食道が傷つく病気です。胸やけ、胸の痛み、酸っぱい水が口まで上がってくる、のどの違和感などがある場合、逆流性食道炎であるかもしれません。本来胃液は食べ物を消化するために大切なもので、胃の粘膜の表面には胃液に消化されないようにバリアがあります。しかし食道の粘膜にはそのバリアがないので胃液にさらされると荒れてしまうのです。

なぜ胃液が逆流するの?

では、なぜ胃液が食道に逆流してしまうのでしょう?
その原因は3つあります。

1. 胃液が多い

胃が元気で胃液をたくさん作ると、逆流しやすくなりますね。最近胃の中にピロリ菌がいない、元気な胃の方が増えました。ピロリ菌は胃がんの原因になるのでピロリ菌がいないのは喜ばしいことなのですが、その分逆流性食道炎の方が増えてしまったのです。
また、脂っこい食べ物や消化の悪い食べ物が胃の中に来ると胃は一生懸命消化しようと胃液をたくさん作り、さらに食べ物が胃の中に長くとどまるため、胃液が増えてしまいます。

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2. 胃と食道のさかい目がゆるい

胃と食道のさかい目にはくびれがあり、ふつうまわりの筋肉によって軽く締められた状態になっています。食べ物が通るとゆるんで開くのですが、これがいつも開いた状態になると胃液が逆流しやすくなります。

3. 胃が外から圧迫される

太りぎみの方は内臓脂肪により胃が圧迫されて胃液が逆流しやすくなります。
また、背中の曲がったご高齢の方は、前かがみの姿勢になることにより胃が圧迫されて胃液が逆流しやすくなります。

『逆流性食道炎』と言われたら?

『逆流性食道炎がありますね』といわれたら、治療が必ず必要なのでしょうか?当院で胃カメラをした方のうち、約4分の1の方が逆流性食道炎と診断されています。
診断された方全員が逆流性食道炎の治療を受けているのでしょうか?答えは『No』です。
『逆流性食道炎』と診断する場合、内視鏡専門医は必ずその重症度も診断しています。大まかに言うと、軽症から重症をグレードM→A→B→C→Dの5段階で、ごくわずかな炎症がある方をM、A,Bは軽症、C,Dは重症としています。当院で逆流性食道炎と診断した方の割合は以下のような結果でした。

当院での逆流性食道炎と診断された患者さんの割合

逆流性食道炎と診断された方のほとんどが軽症の逆流性食道炎だということがわかりますね。軽症の方の中には胸焼けなどの自覚症状がない方も多くいらっしゃいました。内視鏡専門医はごくわずかな炎症も見逃さず診断するので、まだ自覚症状が無い場合も軽症の逆流性食道炎と診断するケースが多くあるのです。逆に、異常なしと診断されても胸焼けが強いと訴える方もいらっしゃいます。治療が必要かどうかは検査結果と症状と総合して判断しています。
 実際の治療はMの約4分の1、Aの約3分の1、Bの半数以上、C、D全員が治療をしています。軽症の場合、後ほどお話する生活習慣の見直しをするだけで改善することが多いのです。逆流性食道炎がありますと言われた時、ご自分がどの程度なのか、治療が必要な程度なのかは、そのグレードを聞いてみると見当がつくでしょう。

逆流性食道炎の治療は?

では実際の治療はどのようなものでしょうか?
逆流性食道炎の原因の説明の冒頭で、胃液が多いことをあげました。プロトンポンプ阻害薬と言われるお薬を飲むのが胃液を減らす方法として最も一般的です。ほとんどの方がこのお薬を飲むことで改善をしています。

逆流性食道炎について書かれたホームページなどでは手術について書いてあるものもあります。手術は主に原因の2番目にお話した、ゆるくなった胃と食道のさかい目を締めることで治療をする方法です。しかし実際手術が必要な場合はまれで、当院でも逆流性食道炎で手術をお勧めしたケースはありません。
  そして、大切なことは生活習慣を見直すことです。お薬が必要でない方にも、逆流性食道炎と言われた方は今後悪化することのないように、以下のことをお願いしています。
まず、『寝る直前に食事をするのは避ける、食べたらすぐには横にならない』ことです。
胃の中に胃液や食べ物がたくさんあるのに横向きになったら・・・食道に逆流してしまうのは、容易に想像つきますね。胃の形は左右対称ではないので、左下にして休むと良いでしょう。左下を横にして寝ると、先の十二指腸に胃液が流れやすくなりますが、右下にすると食道に逆流しやすくなるのです。どうしても寝る直前に食事をせざるを得ない場合は、枕を高めにして休むと良いでしょう。
それから、『脂っこい食べ物、消化の悪い食べ物は避ける』ことです。胃の中に食べ物が長く留まることで胃液が多くなり逆流しやすくなります。
 肥満体型の方は『ダイエットをする』ことで、内臓脂肪が減り胃の圧迫が解消され逆流性食道炎が改善されます。背中の曲がったご高齢の方はなかなか難しいのですが、そのような体型が逆流性食道炎の原因になることをご説明すると、なるべく前かがみの姿勢にならないよう工夫しますとお返事いただき、少しずつ症状の改善が見られる方もいらっしゃいます。

『バレット食道』とは?

ところで、胃カメラの結果の説明を受けたとき、『バレット食道(または粘膜)』と言われたことはありますか?
逆流性食道炎のところでお話したように、胃液が食道に逆流すると食道の粘膜は荒れてしまいます。食道の粘膜は長時間胃液にさらされると、胃液からの攻撃を守るために胃の粘膜に変身してしまうのです。変身の範囲が少ない状態を『バレット粘膜(上皮)』、範囲が広くなった状態(具体的には長さがが3cm以上)の状態を『バレット食道』と言います。(バレットというのは、発見した人の名前Barrettに由来します。)
では、なぜバレット食道が問題なのでしょうか?それは、『食道腺癌(せんがん)』という特殊な食道がんになりやすいからです。
 日本人の食道がんの90%以上が、『食道 扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)』で、お酒やタバコが原因になることが多いタイプです。当院で見つかる食道がんも多くはこの『扁平上皮癌』です。一方、『食道腺癌』は欧米人に多いタイプの食道がんで、日本ではまだ珍しいタイプです。しかし最近当院でもバレット食道がんの方が少しずつ見つかるようになり、年々増えてきていると実感しています。
 つまり、胃液の逆流が繰り返し起こることでバレット粘膜が発生し、それがだんだん広くなるとバレット食道となり、食道腺癌が発生しやすくなるということなのです。

『バレット・・』と言われたら?

最近はインターネットでも簡単に医学用語について調べることができるため、皆さんからかなり専門的な質問を受けることが増えました。「バレットって食道がんになりやすいということですよね?」と不安そうに聞いてこられる方もいらっしゃいます。
 『バレット』と言われた方が全員食道がんの心配をしなければならない訳ではありません。
前に粘膜の変化の程度が軽いものを『バレット粘膜(上皮)』、変化の範囲が広いものを『バレット食道』と診断しているとお話しましたね。食道腺癌のリスクが高いのは、『バレット食道』の方です。(少しややこしいですね。) 『バレット粘膜 (上皮) 』であれば、一年に一度程度定期的に胃カメラを受けてバレット粘膜が広がっている兆候がないかチェックを受けていれば問題ないでしょう。『バレット食道』と言われた場合は、より厳重なフォローが必要です。

大切なことは、定期的に内視鏡専門医の検査を受けてご自分の胃や食道の状態を正しく理解することです。『逆流性食道炎』や『バレット粘膜・食道』と診断された場合はその程度や治療が必要かどうか、担当の先生の説明を受け、油断や過度な心配をすることなく、適切な治療やフォローアップを受けて頂きたいと思います。

 

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